※この記事には『映画ドラえもん のび太の月面探査記』のネタバレが多数含まれています。
本編鑑賞後にこの記事を読むことをお薦めします。
発行日:2019年2月12日
出版社:小学館
価格:1800円(税抜)
全258頁
昨年の「のび太の宝島」に引き続き、今年も映画ノベライズ本が発売されました。
今回は映画「月面探査記」で脚本を務めた辻村深月さん自らが書き下ろした長編小説となっております。
本の装丁もカッコいいですね。
<ためし読みはこちら>
さて、この小説版では、
尺の都合からなのか、映画では描ききれていなかったシーンに対するフォローが多数存在していました。
ざっくりと例を挙げると、
「エスパルってどうして生まれたの?」
「ルカくんはどういう方法で学校に転校してきたのか?」
「ルカくんはあの状況から、どうやってルナさんにバッジを渡したのか?」
「映画ラストのあれ、小さな玉から何であんなにたくさんの草木が生えたの?」
「『わすれろ草』だと、エスパルを見た記憶がすぐに戻っちゃうんじゃないの?」
「ディアボロの部下のロボット衛士の名前ってなに?」
あたりの疑問は、この「小説版」に答えがすべて書いてありました。
今年の映画を見て「おもしろかったけど、ここどういうこと?」と思った人は、小説版も読んでみたほうがいいかと。
この小説を読めば、「のび太の月面探査記』の世界がより深く楽しめること間違いなしなハズです。
それでもって「『わすれろ草』だと、エスパルを見た記憶がすぐに戻っちゃうんじゃないの?」という疑問については、
自分も映画を見ていてかなり気になっていた部分だったので、そこに関してちゃんとフォローが入っていたのは本当によかったです。
映画をよーく見ていれば、小説読まなくても察しがつく理由かもしれませんが、
いくら尺がなかったとしても、あのシーンの描写だけはちゃんとやっておくべきだったんじゃないかなあと思うばかりです。
(詳細をここで書くとネタバレになっちゃうので、実際に読んで確かめてみてね)
去年の「映画ドラえもん」でも思いましたが、
小説家さんの考えた内容をアニメ脚本に落とし込むという作業の間で、自分の考えた内容のすべてが映画の尺に収まりきらないってことが起きているのかも。
で、いろいろな場面を泣く泣くカットした結果、
「ここ説明不足じゃない?」と思ってしまうようなシーンが生まれてしまうんじゃないかな、と。
そして、この小説版では、
映画ではあまり深く描かれていなかったルカくんの心情が、より詳細に描かれていたのも印象的だった。
「エスパル」という存在に生まれたが故、
1000年もの間ひっそりと孤独に耐えて生き続けなければいけなかったルカくんの気持ちは痛いほどよくわかる。
ただ終わりのない毎日をひたすらに過ごし続けるのは、つらい。
さらにエスパルは外見のみならず、精神面でも老いることがなく、
過去に受けた心の傷や別れの記憶もすべて消えないまま、いつまでも純粋な感性を持ち続けて生きていかなくてはならないという事まで明らかになっていた。
こんな読んでるだけで悲しくなる設定を思いつける辻村先生は、本当にすごいですわ。
だからこそ、上記の設定やルカくんの過去を知ったうえで、
映画の例のラストシーンを見ると本当に感極まるものがあるんでしょうし、
小説版でしか描かれていない、
地球に戻ったのび太くんとルカくんのかけっこのシーンも、じつに素晴らしいものになっていました。
エーテルを使わず、自分の力だけで大地を走ったルカくんの思いとは。
あと、映画では名無しだったエスパルたちの名前もこの小説で判明していたりもするのですが、
文章内で全員の名前を列挙するだけでイラストカットが一切なく、誰がどの名前なんだかよくわからないという仕様になっていました。
これも映画みたいに想像力でどうにかしろってことか。「破壊」しか思いつかないぞ!
というわけで、
自分は今回の映画ノベライズを通して辻村深月先生の作品を初めて読んだワケですが、めちゃくちゃおもしろかったです。
子供みたいな感想になってしまいますが、
文章だけで『のび太の月面探査記』の内容をあれだけ再現できるのは、本当にすごいと思いました。
さすがプロだ。ちがうなあ・・・。
もしも機会があったら、他の辻村深月作品にも手を出してみたいです。
やっぱり、『凍りのくじら』から先に読んだほうがいいのかな?
といったところで、今日は以上です。ありがとうございました。